中国若年層失業率21.3%の衝撃:『負け組セット』が映す経済崩壊と日本への影響

# 中国経済の実態2020-2025:若年層失業から日本への影響まで包括的分析

## はじめに:転換期を迎えた中国経済

2020年から2025年にかけて、中国経済は高度成長期の終焉と構造的転換期という歴史的局面を迎えています。若年層失業率が21.3%という記録的水準に達し、不動産市場の崩壊、そして「寝そべり族」といった社会現象が広がる中、かつての「世界の工場」は深刻な内部矛盾に直面しています。本稿では、この5年間における中国経済の実態を、若年層の雇用危機、消費パターンの変化、マクロ経済指標の推移、そして日本経済への影響という観点から包括的に分析します。

この期間の中国経済は、単なる景気循環的な調整局面ではなく、人口動態の転換、開発モデルの限界、そして社会的価値観の変容という複合的な要因が絡み合う構造的転換期にあります。特に注目すべきは、世界で最も教育水準の高い世代が直面する雇用危機と、それに伴う社会的・文化的変化です。この現象は、中国社会の根本的な変容を示唆しており、今後数十年にわたって中国経済と社会の行方を左右する重要な要素となるでしょう。

## 第1章:深刻化する若年層失業問題

### 記録的な失業率とその背景

中国の若年層(16-24歳)失業率は、2023年6月に**21.3%**という歴史的高水準に達しました。これは、2020年の12.72%から約9ポイントの上昇であり、わずか3年間で若者の5人に1人以上が失業状態にあることを意味します。この数字の深刻さは、政府が2023年8月に若年層失業率の公表を一時停止したことからも明らかです。

2023年12月に新しい統計手法(学生を除外)で公表が再開されましたが、それでも2025年3月時点で16.5%という高水準を維持しています。さらに、農村部や不完全雇用を含めると、実際の若年層失業率は40%を超えるという推計もあり、問題の深刻さが浮き彫りになっています。

### 大学卒業生の就職難

特に深刻なのが大学卒業生の就職難です。2023年の大学卒業生は**1,158万人**、2024年は約1,200万人と、毎年記録を更新し続けています。しかし、これらの高学歴人材を吸収できる雇用機会は限られています。

2024年の公務員試験では、39,600の職位に対して**300万人**が応募し、競争率は77対1に達しました。この数字は、安定した職を求める若者の切実な願いと、民間セクターの雇用創出力の低下を如実に示しています。さらに、調査によると卒業生の約25%が専攻と無関係な職に就いており、教育投資の非効率性も明らかになっています。

### 「寝そべり族」現象の拡大

このような厳しい雇用環境の中で、2021年4月に誕生した「寝そべり族(躺平/タンピン)」という概念は、瞬く間に中国の若者文化の中心的な要素となりました。この言葉は、過度な競争社会から降りて、最小限の生活で満足するライフスタイルを指します。

「寝そべり」の思想は、単なる怠惰や諦めではなく、「996」(朝9時から夜9時まで週6日働く)文化に代表される過酷な労働環境への静かな抵抗です。ソーシャルメディア上では数百万回の閲覧数を記録し、政府メディアがこれを「恥ずべき」行為として批判したにもかかわらず、その勢いは衰えていません。

さらに2022年以降は、「摆烂(バイラン/レット・イット・ロット)」という、より徹底した諦観を表す概念も広がっています。これは「どうせ努力しても報われないなら、最初から諦めてしまおう」という、より深い絶望感を反映しています。

### 内巻(インボリューション)という競争の罠

「内巻(ネイジュアン)」は、限られた資源をめぐる過度な内部競争を指す概念で、2020年に清華大学の学生が自転車に乗りながら勉強する姿が「内巻王」として話題になったことで広く知られるようになりました。

この現象は、努力の増大が成果の向上につながらない状況を表しています。例えば、かつては大学卒業で良い職に就けたのが、今では修士号、さらには博士号を持っていても就職が困難という状況です。2024年の大学院進学者は561万人と5.61%増加しましたが、これも就職を先延ばしにする「スロー就職」の一環と見られています。

## 第2章:消費パターンの劇的変化と「窮鬼套餐」現象

### マクドナルドの「貧乏人セット」が映し出す経済実態

2023年から2024年にかけて、中国のソーシャルメディアで「窮鬼套餐(チョングイタオツァン)」という言葉が爆発的に広がりました。直訳すると「貧乏人セット」あるいは「負け組セット」となるこの言葉は、もともとマクドナルドの「1+1随心配」という13.9元(約300円)のセットメニューを指していました。

このセットは、バーガーやチキンナゲットなどのメイン1品と、ポテトやドリンクなどのサイド1品を組み合わせられる仕組みで、2019年の発売当初は12元でした。しかし、物価上昇にもかかわらず価格上昇を最小限に抑えたこのメニューは、経済的に苦しい若者たちの間で「生存戦略」として定着しました。

Douyinでは「#窮鬼套餐」のハッシュタグが**8億回**以上視聴され、小紅書(シャオホンシュー)では詳細な「攻略法」が共有されています。この現象は単なる節約術を超えて、若者たちの経済的困窮と、それを自虐的に受け入れる文化的態度を象徴するものとなっています。

### 競争激化する低価格市場

マクドナルドの成功を見た競合他社も続々と参入し、2024年には「10元以下戦争」とも呼ばれる激しい価格競争が展開されました。

KFCは「疯狂星期四(クレイジー・サーズデー)」として毎週木曜日に9.9元のバーガーセットを提供し、バーガーキングも週替わりで9.9元のコンボミールを展開。中国系チェーンの德克士(ディコス)も「2品選んで9.9元」キャンペーンを実施しました。

興味深いのは、これらの低価格戦略が一時的なプロモーションではなく、恒常的な戦略として定着していることです。マクドナルドの張家茵CEOは、2024年を「消費習慣のリセット年」と位置づけ、配送料を9元から6元に引き下げるなど、全面的な価格戦略の見直しを行いました。

### 消費ダウングレードの広がり

この「窮鬼套餐」現象は、中国全体で進行する「消費降級(消費ダウングレード)」の氷山の一角に過ぎません。2024年11月の北京と上海の小売売上高は、それぞれ前年比**-14.1%**と**-13.5%**という大幅な減少を記録しました。

特に顕著なのが化粧品分野で、両都市では前年比**-26.4%**という壊滅的な落ち込みを見せています。代わりに台頭しているのが、ブラインドボックス形式の在庫処分コスメや、9.9元均一ショップです。

飲食業界でも同様の傾向が見られます。美団(メイトゥアン)の「拼好飯(ピンハオファン)」という共同注文サービスは、2024年第1四半期に全注文の10%を占めるまでに成長しました。これは見知らぬ人同士が配送料を節約するために共同で注文するサービスで、わずか数元の節約のために手間をかける消費者の増加を示しています。

### 高級ブランドの苦境と適応

この消費ダウングレードの波は、高級ブランドにも及んでいます。2022年から2023年にかけて、一人当たり300元以上の高級レストランは約40%減少しました。スターバックスは9.9元のラッキンコーヒーとの競争に苦戦し、中国市場での成長が鈍化しています。

興味深いことに、一部の高級ブランドもこの流れに適応し始めています。高級中華料理チェーンの新栄記は、従来800元以上だった客単価に対して、398元の「一人用セット」を導入しました。IKEAも9.9元の「窮鬼套餐」や「疯狂星期五」プロモーションを開始し、ブランドイメージよりも実売を重視する姿勢を見せています。

## 第3章:マクロ経済指標が示す構造的問題

### GDP成長率の推移と実態

2020年から2025年にかけての中国のGDP成長率は、以下のような推移を示しています:

– **2020年**: 2.2%(COVID-19初期影響、1976年以来最低)
– **2021年**: 8.4%(低基準からの強い反発)
– **2022年**: 3.0%(ゼロコロナ政策の影響、目標の5.5%を大幅に下回る)
– **2023年**: 5.2%(再開放後の回復)
– **2024年**: 5.0%(予備的数値)
– **2025年**: 3.95%(IMF予測)

これらの数字は、かつての二桁成長や6%以上の安定成長が完全に過去のものとなったことを示しています。特に注目すべきは、政府目標と実績の乖離です。2022年は目標を2.5ポイントも下回り、経済運営の困難さを露呈しました。

### 不動産市場の崩壊とその影響

中国経済の最大の構造的問題は、不動産市場の崩壊です。2020年に政府が導入した「三道紅線(3つのレッドライン)」政策は、不動産企業の過剰債務を抑制する目的でしたが、結果的に業界全体の崩壊を招きました。

恒大集団(エバーグランデ)は2021年12月に3,000億ドル以上の負債を抱えてデフォルトし、2024年1月には香港の裁判所により清算命令が出されました。中国証券監督管理委員会の調査では、同社が2019年に2,140億元、2020年に3,500億元もの売上を水増ししていたことが判明しています。

恒大だけでなく、碧桂園(カントリー・ガーデン)、佳兆業(カイサ)など、中国の住宅販売の40%を占める企業が2021年半ば以降にデフォルトしました。不動産セクターはGDPの約20%を占め、中国世帯資産の60%が不動産に集中しているため、この崩壊の影響は経済全体に波及しています。

地方政府財政への影響は特に深刻です。土地売却収入に依存していた地方政府は、92兆元(2022年GDP比76%)という巨額の債務を抱えることになりました。銀行セクターの不良債権比率も2020年の1.9%から2022年末には4.4%に上昇し、金融システムの安定性に懸念が生じています。

### ゼロコロナ政策とその後遺症

2022年の厳格なゼロコロナ政策は、中国経済に深刻な傷跡を残しました。特に2022年3月から5月にかけての上海ロックダウンは、2,600万人の住民を対象とした前例のない規模で、グローバルサプライチェーンに大きな混乱をもたらしました。

経済学者の推計によると、ゼロコロナ政策による2022年のGDP損失は3.9%に達しました。製造業PMIは12月に47まで低下し、サービス業PMIは41.6という壊滅的な水準を記録しました。

2022年12月の突然の政策転換後も、混乱は続きました。準備不足のまま行われた開放により、わずか1ヶ月余りで約6万人のCOVID関連死が報告され、医療システムは崩壊寸前に追い込まれました。この経験は消費者心理に深刻な影響を与え、2023年以降も内需の回復を妨げています。

### デフレ圧力と構造的課題

2023年から2025年にかけて、中国経済はデフレ圧力に直面しています。消費者物価指数は2023年、2024年ともに平均0.2%と、ほぼゼロインフレ状態が続いています。IMFは2025年についてわずかながらマイナスのインフレ率を予測しており、日本型のデフレスパイラルへの懸念が高まっています。

この背景には、複数の構造的要因があります。第一に、人口動態の転換です。2023年には208万人の人口減少を記録し、2年連続のマイナスとなりました。60歳以上の高齢者は2億9,697万人(人口の21.1%)に達し、急速な高齢化が進んでいます。出生率は0.752%(2021年)、合計特殊出生率は1.0(2024年)と、人口置換水準の2.1を大きく下回っています。

第二に、過剰債務問題です。総社会融資残高は408.3兆元(GDP比303%)に達し、GDP1単位の成長に5.52単位の債務が必要という非効率な状態に陥っています。債務の増加が経済成長につながらない「債務の罠」に陥っているのです。

## 第4章:日本経済への多面的影響

### 貿易関係の変化

中国経済の変調は、日本の対中貿易に直接的な影響を与えています。2023年の日中貿易総額は2,664億ドルに達しましたが、成長率は鈍化傾向にあります。2025年第1四半期の日本の対中輸出は、円建てでわずか0.7%の成長にとどまりました。

日本の対中貿易赤字は2023年に約6兆円(400億ドル)に達し、構造的な不均衡が続いています。特に影響を受けているのは、電子部品、自動車部品、産業機械などの分野です。中国の不動産市場崩壊により、建設機械や素材関連の輸出も大幅に減少しました。

### サプライチェーンの再構築

2022年の上海ロックダウンは、日本企業のサプライチェーンの脆弱性を露呈させました。70日間にわたるロックダウン期間中、調査対象の日本製造業の80%以上が生産削減やサプライチェーンの混乱を報告しました。

この経験を踏まえ、日本企業の84%が「チャイナプラスワン」戦略を採用しています。日本政府も23億ドルの予算を計上し、サプライチェーンの多様化を支援しています。経済産業省は2020年5月から2022年3月までに439件の国内回帰プロジェクトを承認し、JETROは104件の第三国移転プロジェクトを支援しました。

移転先として人気が高いのは、ベトナム(35件以上)、タイ(22件)、マレーシア(12件)で、特に電子機器と自動車関連産業が中心です。インドも新たな投資先として浮上し、2024年には日本企業の最大のFDI先となりました。

### 観光業の回復と課題

中国人観光客の動向は、日本の観光業に大きな影響を与えています。2019年には959万人の中国人が日本を訪れ、訪日外国人の約30%を占めていました。しかし、COVID-19により2020年から2022年はほぼゼロとなりました。

2023年以降、段階的な回復が見られ、2024年には698万人(前年比187.9%増)まで回復しました。しかし、これは2019年のピークと比較すると依然として27%低い水準です。興味深いことに、円安の影響で一人当たりの消費額は238,722円と、2019年の158,531円を大きく上回っています。

地域的には、訪問先の集中化が進んでいます。2024年には訪日中国人の70%が東京、大阪、京都などの大都市圏に集中し(2019年は60%)、地方への分散が課題となっています。

### 投資環境の構造変化

日本企業の対中直接投資は大きな転換点を迎えています。2010年から2014年にかけて年間80億ドル以上だった投資額は、2024年には32.9億ドルまで減少し、10年前と比較して60%の減少となりました。

この減少の背景には、地政学的リスクの高まり、規制の不透明性、労働コストの上昇、不動産市場の低迷などがあります。日本企業の投資魅力度調査では、中国は6位に後退し、インドが首位となりました。

しかし、完全な撤退は現実的ではありません。ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正CEOは「中国の工場を代替する簡単な方法はない」と述べ、多くの日本企業が中国での事業を維持しながら、新規投資を他国に振り向ける「現状維持プラス分散」戦略を採用しています。

## 第5章:2025年以降の展望と課題

### 構造改革の必要性

中国経済が直面する課題は、景気循環的なものではなく構造的なものです。若年層失業、不動産バブル崩壊、人口減少、過剰債務という四重苦を解決するには、根本的な経済モデルの転換が必要です。

投資主導から消費主導への転換は20年以上前から叫ばれていますが、実現には至っていません。「共同富裕」政策も、実際には民間企業への規制強化という形で現れ、イノベーションと雇用創出を阻害する結果となっています。

### 社会的影響の深刻化

「寝そべり族」や「窮鬼套餐」現象は、単なる一時的な流行ではなく、中国社会の深層的な変化を示しています。努力が報われないという絶望感は、結婚率の低下(2024年は1980年以来最低)、出生率のさらなる低下につながり、人口動態の悪化を加速させています。

若者の間で広がる「内巻」への疲弊感と「寝そべり」志向は、中国の長期的な経済成長力を蝕む可能性があります。創造性とイノベーションの源泉である若年層が社会参加を拒否することは、「中国製造2025」などの野心的な目標の実現を困難にするでしょう。

### 日本への示唆

中国経済の構造転換は、日本にとって挑戦であると同時に機会でもあります。サプライチェーンの多様化は短期的にはコスト増となりますが、長期的にはリスク分散により企業の持続可能性を高めます。

観光業では、中国人観光客の回復を活かしながら、他国からの観光客誘致も並行して進める必要があります。また、中国の若年層が直面する問題は、かつて日本が経験した「就職氷河期」と類似点があり、その経験と教訓を活かした協力の可能性もあります。

投資戦略としては、中国市場の重要性を認識しつつ、ASEAN諸国やインドなど、他のアジア市場への展開を加速することが重要です。特に、中国が得意としてきた労働集約型産業がこれらの国々に移転する中で、日本企業は技術力とブランド力を活かした高付加価値分野に注力すべきでしょう。

## おわりに:転換期における新たな関係構築へ

2020年から2025年にかけての中国経済は、高度成長期の終焉と新たな発展段階への困難な移行期にあります。若年層失業問題、消費パターンの変化、不動産市場の崩壊、そして人口動態の転換という複合的な課題に直面し、従来の成長モデルは限界に達しています。

「窮鬼套餐」に象徴される消費ダウングレードは、単なる経済現象を超えて、中国社会の価値観の変化を反映しています。物質的豊かさを追求する「中国夢」から、最小限の生活で満足する「寝そべり」への転換は、中国の発展パラダイムの根本的な見直しを迫っています。

日本にとって、この中国経済の転換は、過度な依存からバランスの取れた関係への移行の機会となります。サプライチェーンの多様化、新市場の開拓、そして中国市場での差別化戦略の構築が求められています。

同時に、両国が共通して直面する少子高齢化、若者の雇用問題、社会保障の持続可能性といった課題において、競争ではなく協力の可能性も探るべきでしょう。東アジアの二大経済国として、地域の安定と繁栄に共同で貢献する道を模索することが、両国の長期的な利益につながるはずです。

中国経済の構造転換は始まったばかりであり、その行方は依然として不透明です。しかし、確実なのは、過去の高成長モデルには戻れないということです。この新たな現実を直視し、適応していくことが、中国にとっても、そして中国と深い経済関係を持つ日本にとっても、最重要課題となるでしょう。

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